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⑥1592年10月有馬

(C)箱舟の聖母社

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⑥1592年10月有馬

有馬のどの家にも、あとからあとから連行されてきた高麗人がいる。有馬だけではない。キリシタン大名の治めるところでは、大村も天草も長崎も五島も同じように捕虜達が民家に分宿させられている。

イエズス会は、1566年から高麗への宣教を望んできていた。ヨーロッパ人は、遠い先を見て、用意周到に準備をする頭の持ち主である。日本の宣教のために1580年に有馬にセミナリヨをつくり、10才前後のキリシタンの子弟を入学させ、将来の同宿、修道士、司祭の養成をはじめると、日本生まれの高麗人のキリシタンの子弟も入学させ、高麗への宣教の準備をはじめたのだ。有馬には、パウロの他に何人かの高麗人同宿がいるが、今、彼らは、何千人もの高麗人の捕虜にカトリックの教理を教えるために、あちこちによって大わらわで働いている。

その何千人もの高麗人捕虜の中でもシストとカタリナはパードレたち、修道士たち、同宿たちの間で有名人になってしまっている。一体なにがあったのだろう。実は、こんなことがあったのだ。

イエズス会は上記の理由で、高麗人たちに熱烈に信仰の教育をほどこし始めた。シストとカタリナは、農家の一家と一緒に農作業をして過ごしているが、日曜日は高麗人たちのほとんどは、セミナリヨへ行く。そこで、パウロの通訳つきでパードレから、または、パウロから教理をならっている。

ある日のこと・・・・。パウロが通訳している。

パードレ
「神は唯一です。唯一の神には三つのペルソナがあります。父と子と聖霊です。これを三位一体といいます。三位一体は人間の頭では絶対に理解できません。ただ、これをこのまま信じるのですよ。」

その時、パードレの目に、お気に入りのシストの顔が飛び込んだ。

パードレ
「私の子よ、シスト。父と子と聖霊は別々の方なのですよ。なのに神は一体だなんて、信じなさいと言われても信じられますか。」

真剣にシストは考える。パードレは、しばらくシストの返事をまつ。ニコニコしながら。

シスト
「パードレ、わからないけど、信じたいから信じます。」

パードレ
「そう、そう。よし、よし」

パードレは、この返事に満足してうなずく。

シスト
「パードレ、これは僕が金と銀と銅を一つの石からとるのとにているなあと思ったんです。一つの石で、何のへんてつもない石に見えます。でも、その一つの石の中にちゃんと金と銀と銅がある。吹き分けたらちゃんと別々に取れるのですから。」

まず、パウロが驚きの叫びをあげる。パードレがパウロ

パードレ
「なに。なに。何をシストは言ったんだい。」

パウロ
「パードレ、聞いてください」

そして、シストの言葉を通訳する。パードレとパウロは顔を見合わせ、しばらく黙ってしまう。二人とも、三位一体について、こんなたとえを未だかつて聞いたことが無いのだ。もしかすると教会史上初の「三位一体の鉱石によるたとえ」かもしれない。やっとパードレが口を開く。

パードレ
「シスト、あなたは天才です。」

パードレは、となりにいるカタリナにも何か質問してみようと思った。

パードレ
「カタリナ、私の子よ。人間の五感では決してとらえられないけれど、ご聖体はパンではなくて、もうイエズス様になっています。人間の霊魂が永遠に生きるために、かたみとして与えて下さったのです。これも、また、分からなくても信じて認めなければなりません。それが出来ますか。」

カタリナも真剣な表情でしばらく黙る。それから悲しそうな声で話し出す。

カタリナ
「パードレ、私のお父さんが、私が連れて行かれる時に、これで長生きしてくれって、ニンニクを私に手渡したの。たったこれがお父さんの形見なの。神様は何でもできるでしょう。 永遠に長生きさせるために、ご自分を食べさせるしかなかったら・・・。 私も、もし私が何でもできる神様だったら自分を食べ物にして、 子どもにあげちゃう。何でもできる神様で、お父さんのようなイエズスが、 そうして下さったって、私、信じたい。」

カタリナは、お父さんとの別れのことを思い出して、目に涙があふれる。パードレは、感動し、パウロと、また、顔を見合わせる。お父さんのニンニクと、イエズスのご聖体を並べて考える子どもらしさの中にも、もし私だったらと自己を食べ物にしてあげちゃうという愛深い自己犠牲の宣言があったからだ。

パードレ
「私の子どもたち、あなたたち夫婦は、なんという夫婦だ」

パードレもパウロもこの二人の話を皆に伝えずにはいられなかった。もちろん聞いた人々も感動し、食事の時の話題にしたり、次の人に伝えたりと。こうしてシストとカタリナに会ったことが無い人々も、シストとカタリナの名と、この二人の返事のことについて知るようになったというわけだ。





2008年5月10日 UP
著者 ジャン・マリー神父・ソーンブッシュ・リトルヨハネ
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