ひつじ くらぶ

ゲイでクリスチャンのロンジン 身近な おはなし

⑨ 涙のクリスマス

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 (C)箱舟の聖母社

涙のクリスマス

ルイスは笑っている二人を見つめ昨日得た情報を伝える。

ルイス
「シスト。カタリナ。君たちの行き先が決まったよ。石見銀山っていうところだ。とっても高い値段で売り渡されたそうだよ。」

シスト
「僕たちが、とっても高い値段で売られたっていうことを、僕たちは 喜んでいいのかな。何か胸にズキンとくるんだけど。」

ルイスが答えに困っているうちに子どもたちが騒ぎ出す。

子どもたち
「シストとカタリナはどっかへ行っちゃうの。」 「嫌だどこにも行かないで。」 「ねえ、行きたくないって言えば行かなくていいんでしょう。」 「ねえ、おねがい。行きたくないって言ってよ。」

カタリナ
「私達は、行きたくないって言えないのよ。」

子どもたち
「嫌だ。嫌だ。どうして行きたくないって言えないのよ。」

子どもたちが泣き出した。二人にすがり付いて、二人をゆすって、泣いてせがむ。

子どもたち
「行かないって言ってよ。行きたくないって言ってよ。」

シストとカタリナは自分たちが戦利品だということは良くわかっている。でも、子どもたちには説明できない。人が人を物のように売り買いすることを。

カタリナは、子どもたちと一緒に、子どものように泣き出してしまった。近づく別れを悲しむより以上に、物のように売られるということが現実になってショックを受け、みじめな気持ちになってしまったのだ。

家の奥さんも泣いている。涙のクリスマスになってしまった。家の主人と家の奥さんは子どもたちをシストとカタリナから引き離し、別の部屋に連れて行く。子どもたちは向こうで、カタリナはここでまだ泣いている。

シスト
「ルイス。どうやってこのことを受けとめたらいいのかい。何か。とってもつらいんだ。自由を失った身分なんだって思い知らされて。」

ルイス
「シスト。カタリナ。その方法はね。自分の苦しみを全てイエズスの苦しみに重ねあわせ、イエズスに似たものとなれたことを喜ぶ。こういうやり方なんだ。」

ルイスは、実際の例を示すために、考えるための時間をとる、そして話をしだす。

ルイス
「イエズスはね、銀貨30枚で売り渡されたんだよ。奴隷一人の値段は、銀貨30枚って決められていたんだ。12使徒の一人ユダ・イスカリオテが、裏切って敵の司祭長たちにこの値段で売って引き渡したんだ。そして、イエズスは捕らえられて死刑を宣告されて十字架にはりつけになったんだよ。だから、自分たちが奴隷のように売られた苦しみとはずかしさを、イエズスがしのんだ苦しさとはずかしさに重ねあわせるんだ。そして、イエズスと似たものになれたことを喜ぶんだ。同じ苦しみ、同じはずかしめ、つまり、同じ運命、同じ十字架に預かれたことをね。」

シストとカタリナは、だまって集中して聞いている。二人ともそれぞれに何かをつかみかけているようだ。それを、見てルイスは、また、話し出す。

ルイス
「それからね。君たちは自由を失ってなんかいないよ。苦しみとはずかしめが強いられたもので、絶対に受け取らなくてはならないものであってもそれでも君たちの魂は自由なんだよ。イエズスがね。人が私の命をうばうのではなくって、私が自由に自分の命を与えるのだっておっしゃったんだ。苦しめとはずかしめをいやいや受けるか。苦しみとはずかしめを愛して、望んで、よろこんで受けるかの自由が魂にはいつもうばわれずに残されているんだよ。いいかい。十字架の縦の棒は苦しみ。横の棒ははずかしめ。」

ルイスは、パードレが祝福するときのようにゆっくり手をたてについで、よこにうごかして、十字を描く。それから、両腕を広げ、それをハッグするまねをしつつ、

ルイス
「この十字架、大好き。こうするんだよ。」という。

今、シストは、自分からすすんで親方の身代わりになったことを思い出している。「そうだ、僕は自由に選んだんだ。苦しみ、はずかしめ、この十字架大好き。魂の闘いの勝利って、これだ。これなんだ。」
心と魂に大きな光を受け、シストの瞳がキラキラと輝く。

カタリナも黙ってはいるが、今、同じように、大きな照らしを受けつつある。同じ苦しみ、同じ十字架、同じ運命を夫と分かちあってきた幸せ。たしかに、自分はそれを望んできた。自分にとってこれ以上の幸せは、きっとこの世に無い。花嫁になった日、そういえばこんなことを感じたっけ、
今、これをイエズスに。あの花嫁の愛で、イエズスを愛すれば、どんなことも幸せにかえられる。カタリナの顔に微笑がもどる。

「涙のクリスマス」。日本での最初のクリスマスを二人はいつまでもこう記憶するだろう。しかし、実はこの日二人に神からの啓示の光という偉大なおくりものが与えられ、二人の生涯の闘いの方向性が定まったのだ。二人は、それぞれが受けたものを、まだ言葉にあらわせない。あまりに深い内的なさとりの場合、誰でもそれについてしばらく黙ってしまうものだ。シストが実際的な話に持って行く。

シスト
「ぼくたちの行き先は、ここから遠いのかい。」

ルイス
「かなり遠いよ」

カタリナ
「いつ、いくの。洗礼は。」

ルイス
「春になったら。ご復活祭に洗礼を授かるんだよ。パードレたちは、高麗人たちが洗礼を受けてから、それぞれの行き先に出発できるようにと頼んだからね。」

家の主人と奥さんが泣きやんだ子どもたちを連れて食卓に戻ってくる。こうして食事が再開する。





2008年5月11日 UP
著者 ジャン・マリー神父・ソーンブッシュ・リトルヨハネ
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